犬と狼の間

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ミュージカル『ドン・ジュアン』感想

ミュージカル『ドン・ジュアン』観劇してきました。
予習なし、宝塚版未観劇の人間の感想です。

あらすじはこちら

スペイン・アンダルシア地方。赤い砂塵の舞うセビリア
そこにあらゆる女を魅了して、悪徳と放蕩の限りを尽くす男がいた。
男の名はドン・ジュアン。彼は今宵も欲望の赴くまま、騎士団長の娘を毒牙にかける。
娘を穢されたと知った騎士団長は激怒し、決闘を挑むが、
彼は騎士団長をせせら笑うかのようにその剣をかわし、相手の命を奪う。
それが愛という名の呪いを招くとも知らず……。


正直に言うと、ドン・ジュアンにもマリアにもまったく共感できないのが辛かった。終始とにかくラファエルが可哀想すぎる!と憤慨しながら見ていたので、ラストの悲劇も因果応報…という気持ちにしかなれず。
おそらくドン・ジュアンとマリアの恋の過程が急加速すぎる(舞台の尺ではしょうがないのだけど)のと、ドン・ジュアンへ恋をした後のマリアに魅力を感じられないことが原因かな。

マリアはドン・ジュアンと恋愛した後、それまでとても大切にしていた彫刻の仕事も放り出しているし、元婚約者であるラファエルの生死すら確かめずジュアンにも伝えない。ラファエルと違って彫刻の仕事を認めてくれるジュアンに惹かれたんじゃないの…?いくら気持ちが冷めてきていたとはいえ婚約者が亡くなってしまったら確認して弔わない…?と思ってしまい、あまりマリアに感情移入できなかった。
「愛は呪いだから」*1と言われてしまえばそれまでなのだけど、それまで大切にしていたものや価値観を踏みつけてまでそれにのめり込むことを肯定したくないな。なんだか、そんな男やめなよ!と思うような彼氏にのめり込んで生活が崩れていく友人(架空)が脳内に現れてしんどくなった。
ちなみに、ドン・ジュアンに対しては最初から最後まで何だこいつと思っていました。それまでに傷つけた女の精算もしないで自分だけ幸せになろうなんて虫が良いのだ・・・私も騎士団長なのかもしれない。

そして傷つけられた女の筆頭といえば、ドン・ジュアンにワンナイトされ、その行為中にした「結婚する」という約束を信じて「自分はドン・ジュアンの妻だ」と言い張るがジュアンには見向きもされない女…というキャラクターである修道女のエルヴィラ。もちろん修道女に手を出したジュアンが悪いのだが、視線すらほとんど向けられないのに「妻だ」と言い張る執着がとても恐ろしかった。彼女はそう信じていないと自分自身も尊厳も保てなかったのだろうな。でも現代だとストーカーと呼ばれる気質だな、と思った。

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別に共感=面白さではないと思っているのだけど*2、主人公というか、物語の主軸として好意的に語られる存在に愛が持てないと作品をフラットに見られない、という学びを得ました。

***

先にマイナスな感想を書いてしまったけれど、キャストは皆さんとても良かった。
タイトルロールのドン・ジュアンを演じていた藤ヶ谷太輔さん、舞台のイメージがないのでどうなのだろうと思っていたけれど想像以上に良かったです。
ジュアンは登場から第一声を発するまで無言の時間がかなり長く、その間表情やダンスのみでしか表現しないのだけど、存在感とオーラで場をもたせることができていて「ジュアンは人々を魅了する男」であるという説得力があった。
また、それによって溜めに溜めて出す第一声がかなり際立ち、鳥肌が立った。マリア役の真彩さんを始め実力揃いのキャストに囲まれていたけれど、歌もダンスも見劣りしなかったよ~。

ちなみにお目当ては上口さんだったのだけど、全く予習していなかったので何故か勝手にコメディリリーフ的な役回りだと思っていたら全然真摯に格好いい役で動揺した。しかし上口さんって『主人公の友達』ポジションが異様に似合うのはなんなんだろう。今回も良かったです。

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赤坂ACTシアターは外の大看板がめちゃくちゃ良いよね。新しく劇場作るならどこも導入してほしい。こちらは藤ヶ谷さんのファン(めっちゃいっぱいいるし、年齢層も幅広くて感心した)に遠慮してものすごく端から撮った写真です。

*1:この物語は、愛娘を弄ばれた挙句に決闘で敗れ殺された騎士団長がかけた「愛が呪いになる」という呪縛が大きなモチーフ

*2:むしろ「共感できる=良い」みたいな風潮はどうかと思っている