犬と狼の間

え?遊んで食べて寝てちゃだめ?

舞台『ブライトン・ビーチ回顧録』感想

『B・B回顧録』観てきました。すっっごく好きな作品だった!

アメリカ・ブロードウェイの大御所コメディ作家ニール・サイモンの三部作、『ブライトン・ビーチ回顧録』『ビロクシー・ブルース』『ブロードウェイ・バウンド』。B・B三部作と呼ばれるこれらの作品は、ニール・サイモン自身を思わせるユージンを中心に描かれる青春成長物語で、ニール・サイモンの新境地を開いたといわれる作品です。


『ブライトン・ビーチ回顧録』は、サイモンの少年時代を描いたとされていて、何か大きな激動が起こるわけではないが日々小さな衝突や失敗を繰り返しながらも家族の結びつきを強めていく姿が、自伝というよりもむしろエッセイのような雰囲気にも感じられる暖かい作品だった。


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 驚いたのは1930年代の物語でありながらも古臭くは感じず、現代の家族や兄弟と共感できる瞬間が多々あること。ユージンの母『ケイト』の妹『ブランチ』は、夫に先立たれ娘二人とともにケイト宅へ居候している。従姉の『ノーラ』は美人で女優志望。ブロードウェイで女優になると言い出し、その妹『ローリー』は病気がちで家事の手伝いを免除され本を読んでいるばかり。兄の『スタンリー』は社長とのトラブルで失業しそう。父『ジャック』は家族のために身を粉にして働いているが過労で倒れてしまう。度重なるストレスでついに母は居候している妹にヒステリーを爆発させてしまい…というエピソードがあるのだけど、これを全然「過去の世界の話」に感じなかったのだ。

まあ、さすがにいとことはいえ思春期の兄弟と姉妹を同じ屋根の下に住まわせることはないかもしれない(実際、性に目覚めはじめたユージンは美人のノーラにムラムラする)が、「家族のために負担が増える:家族がいるから頑張れる」みたいな構造は不変である気がする。

 結局ユージン一家は家族みんなで頑張る方向に舵を切るし、共生しないと生き延びられなかったであろう1930年代においてはそれが正しいのだと思う。しかし、『ひとりでも生きていける』ようになった現代では、それが絶対の正解ではなくなっていろんな社会問題が生まれているんだろうなあ…などと考えた。私は共生が全然得意じゃないので現代に生まれて良かったのだけど、こういう命題はきっと何年経っても変わらないのではないかな。

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作品から話が逸れたけど、今作はそういう家族の機微を14歳のユダヤ人の少年『ユージン』の視点から描いている。何を隠そう今回はこのユージン役の佐藤勝利君を目当てに観に行ったのだけど、勝利くん、すごく良かったです。

勝利くんの芝居って、技術がどうとかよりも「佐藤勝利という存在を完全に消し去り役で在る」ことが素晴らしいと思う。あの国宝とまで言われる顔立ちでアイドルグループのセンターでありながらも、その辺にいる普通の少年にしか見えなくなる…これは頑張ったから出来るとかいう話ではなくて持って生まれたものだと思うのだけど、めちゃくちゃ武器だと思います。(ちなみに最近で言えばキンプリの神宮寺くんのお芝居にも同じものを感じた)

 そして兄の『スタンリー』を演じた入野自由さんもすごく良かった。スタンリーは家族のために頑張っていて頼れる良い兄貴なのだけど、あまり頭が良くなくて賭博でお金を失ってしまったりもするし、スタンリー自身も自分の能力が頭打ちだということも理解している。その中で、誰よりも早く弟ユージンの才能に気が付いて慈しむ姿が切なくも暖かくてじーんとした。

入野さんと勝利くんって並んでいても全然兄弟には見えないと思うのだけど、作中で二人はどこからどうみても兄弟で、同志で、ソウルメイトのようでもあった。兄弟姉妹ってやっぱり親子とはまた違う絆なんですよね。今作はユージンの目から見た世界の話なのでスタンリーとの関係が深く描かれているけど、きっとノーラとローリーにもまた違った絆があるのだろうな。

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今回は勝利くんの主演ということで勝利くんのちょっこりさん*1と一緒に写真を撮っている若い女子をたくさん見かけて微笑ましかった。おそらく初観劇がこの作品になったという方も多かったんじゃないかな~。
個人的にはやっぱりワンシチュエーションのストレートプレイが好き!と再確認しました。いや、もちろんミュージカルも壮大なやつも好きなんですけど、定期的にこういう作品は観ていきたい。とりあえず、来年の万里生さんのストレートが今作と同じく小山ゆうなさんの演出なので楽しみにしています。

*1:ぬい