犬と狼の間

え?遊んで食べて寝てちゃだめ?

舞台『僕はまだ死んでない』感想

この作品について感想を書くのが難しくて、自分自身が何を感じたのかがよくわからない。大枠で見ると「終末医療の葛藤の話」なのだが、セット床に敷き詰められている砂や、鯉の話や、直人の独白が現実的なテーマにファンタジー感をプラスさせていて自分の視点をどう持っていたらいいのか分からなくなり戸惑ったのだと思う…。というわけで、あまり考えがまとまっていないし良いことも言ってないのだけど感想。



あらすじ

壁に包まれた病室。父と女医。それに僕の友人とが話をしている。体が動かない。何が起こったのか。
女医は淡々と「元通りになる可能性はないし、むしろ生き延びたことを奇跡だと思ってほしい」と話す。
なるほど、そういうことなのか。
奇跡的に意識が戻った後も、かろうじて動く眼だけで意思疎通の方法を採る。なにかと気にかけてくれる友人、そんな状態の前でかまわず女医を口説く父、戸惑う女医、そこへ離婚調整中の妻が面会にやってくる…。


物語は画家の直人が自宅で病に倒れることから展開する。意識を取り戻した直人は、全身が動かせなくなっていた。彼は唯一動かせる眼でシートに書かれた文字を追い視線を動かすことで自分の意思を伝えるようになる…のだが、そこで直人が伝える自分の進退への意思が碧*1に対してと妻*2に対してとで180度違うのが気になった。

碧に対しては『碧の番 鯉埋めて』と直接(視線で)伝えており、これを碧は「幼いころ自分が直人に鯉を殺させて埋めさせたことになぞらえて次は自分が直人の医療を止める決断をしろ」という意思だと判断する。
一方で妻に対しては、視線で伝えた言葉を父に代筆させ、手紙という手段で「自分を見捨てないでほしい(これは大分テキトーな要約)」ということを伝える。
この矛盾は何なんだろうと考えて、碧が『碧の番 鯉埋めて』と読んだのは要はこっくりさん現象で、自分がそうであってほしいという方向(碧は、幼い頃に鯉を殺させたことを罰されたい&直人は絵が描けなくなるならば死んだほうがマシだと思っている、と考えていると感じた)に無意識下に誘導したのかなとも考えたけれど、ぴったりとしっくりはこない。

また、セリフからなんとなくの推察はできるものの、直人がどこまで絵を愛していたのかだとか碧と直人の信頼関係の深さだとか夫婦がどんな様子だったのかだとかそういう部分が表現されないままに進むので、えっこれで終わり?という気持ちになってしまった…。
砂や鯉に対しても自分で納得のいく解釈が取れずに消化不良。集中を保つことが厳しい場面もあったので単に私が何か重要な情報を見落としているだけなのかもしれませんが。
とは言え駄作と感じたわけではなく、いわゆる「それでも生きてゆく」というような現代的なテーマをしみじみと感じさせる作品だった。現代では悲劇がラストを飾るのではなく、悲劇の後どう生きていくのかがテーマとなるのだな。


と、ここまで書いてから単純に私が木下さんの演出と相性が悪いんだわ、と気が付いた。原作を偏愛しているのにハイステにハマれなかったし・・・*3

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碧役と直人役がスイッチだったのでどちらも観てきたけど、碧:上口さん/直人:矢田さんがしっくりくるなーと感じた。演技云々というか、単純に年齢が合っているからそう感じただけですね。

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博品館劇場、何度か行ったことあるのに銀座からより新橋からの方が近いと初めて気が付いた。

*1:幼馴染で直人の兄貴分。主役の一人でもあるので碧の物語でもある

*2:画家の仕事に集中するあまりないがしろにしていたので離婚調停中

*3:人気が高いのは知っているので私の問題