犬と狼の間

え?遊んで食べて寝てちゃだめ?

チャオ!明治座祭10周年記念特別公演『忠臣蔵討入・る祭』感想

 忠るを観てきた。先に私とるひまの話をすると、僕図書3から納祭くらいまでしっかりと追っていてその後は諸事情*1により観たり観なかったりしていたゆるいファンである。それでもるひまには「思い入れがあるからこその楽しさ」があると思っていて、それはお約束をお約束だと思える楽しさであり、一緒に笑っている人たちとの仲間意識でもあると思っている。そして私はるひまのそういう部分に虜になっているのだと思う。というわけで、観劇感想です。とはいえ12/30夜公演と31日のカウントダウン公演ライブ配信で観たのみなのでいろいろと浅いかもしれませんがあしからず。

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本編 『O-ICCEAN’S11~謎のプリンス~』


 明確な悪役がいない話だなと思った。というか、悪役として描かれている側の方が感情移入をし易かった。自分は将軍の器でないのだと嘆く綱吉の怯えと屈折も、信子と柳沢の綱吉への想いも、吉良の病に伏せる妻を救うためならそれ以外はどうでもいいのだという感情も、どれもわかりやすくスッと心に落ちた。
 一方で主人公である大石ら赤穂サイドの感情に寄り添うのは難しかったな。家臣からもらった思い出の品を踏みにじられて刀を抜く浅野、愛する殿のため謀反を企てる家臣たち…大枠で見るともちろんよく分かるのだけど、綱吉と折り合いが悪く(内通する疑いがないため帝から家宣を預けられるほどに)目を付けられていたと言う浅野は家臣たちが見ていた「素直で明るく優しい殿」とは違う一面も持っていたように感じたし、吉良への仇討ちならまだしも将軍への謀反をそう軽々しく決められるものなのか?とも思った。*2浅野と家臣のシーンがもっとあったら違うのかな~。まあ、単なる私の性質の問題の気もする。

愛ほど歪んだ呪いはないよ

 寺坂(=家宣)だけは「愛」に行動を縛られない登場人物だったのかもしれないと思っている。十郎と兄を愛した喜世は羽織を縫い仇討に送り出した。家臣への愛で刀を抜いた浅野、妻への愛で浅野を陥れた吉良、殿への愛で打首だと分かっていながらも謀反を起こした赤穂浪士、綱吉への愛で代わりに子供を作った柳沢、身重でありながら綱吉の後を追った信子。物語の中で、愛は歪みと自身の破滅だ。
 一方、寺坂は赤穂の仲間たちに死んでほしくないと謀反を止めようとした。至極真っ当である。そのバックボーンにはかつての仲間を信じずに失ったことへの悔いがあるのだが、殿を失った家臣たちの想いに沿うことよりも仲間を失いたくない自分の想いを優先している時点でやはり家宣は過去も現在も他者への愛よりも自分を正しいと信じている。そして、歪んだ愛に呑まれることのないそれはまるで名に「家」の字を冠された家宣の将軍の器の証明のようだ。

先刻御承知が入り乱れている

 パロディやおふざけは今年も非常に面白かった。
やはり歌唱やダンスが入ると疾走感も出て集中力も途切れないし知っているメロディだと無条件に楽しくなってしまう。パロディや内輪ネタにはちょっとずるいなと思いつつも、祭りはこれを観たくて観に行っているわけでありこれだからこそ祭り「シリーズ」なんだよな、と思っている。

先生は私が恋文を盗み読んだことを先刻御承知であり、私は先生がそのことを先刻御承知であることを先刻御承知である。今宵に限ったことでなく、これまでの長いやり取りの積み重ねを通して、互いの先刻御承知が入り乱れている

森見登美彦の『有頂天家族』の一節なのだけど、なんとなくるひまとそのファンの関係ってこんな感じがしている。私たちはるひまが本編中にそこそこの尺を取って中の人ネタを入れてくることも先刻御承知であり、るひまは観客が先刻御承知であることを先刻御承知なのである。

第二部 ショー『煮汁プロジェクト』

笑いすぎてあまり記憶がない。

超鈍行の曲がほとんど本家そのままだった。あとみんな何役(?)もこなしていて偉かった。るひまにはいつまでもこういうことをやって笑わせてほしい。

総括

 今年の祭シリーズの題材は忠臣蔵ですと言われて大江戸鍋祭のことを考えなかったと言えば嘘になる。ただし、フィーチャーされる登場人物もアプローチも観終わった後の感覚も全く異なるものだった。どちらが好みかは人それぞれあるとは思うけど、比較することはナンセンスだと思わせられた。
 ことエンターテインメントに置いて続けるというのはすごく難しいことだと思う。変わりすぎると「続ける」ことではなくなってしまうし、かといってアップデートをしないままでは消費者からは飽きられる。10年目の節目にあえて同じ題材を選んだのは、今までを踏襲しながらも新しいものを作っていくのだという意思表明に感じられて、これからのるひまも楽しみだと思った。

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 上演前のアナウンスで、「私語は慎んでください。でも、面白いと思ったら好きに笑ってください」といった内容のアナウンスがあった。そういえば舞台ってそれでいいんだよな、と腑に落ちた。なんとなく、真顔で息をひそめていないといけないと感じていたのだ。何か意味がないと舞台を観てはいけないように思っていたのかもしれない。でも、舞台を観る意味なんて無くたって別に良いし、楽しかったら笑っていていい。エンターテインメントを上演する意味なんて、それを観ている客を楽しませることだけでいい。そんな当たり前のことを思い出してすごく気が楽になったのだった。

るひまを好きで良かったなと思っているし、いろいろなことがあった2020年の締めくくりをるひまで終えられてとても良かったと思っている。

*1:推し活とも言う

*2:そこはそもそも「忠臣」蔵なのでそんなことを言うのは野暮なんだけど