犬と狼の間

え?遊んで食べて寝てちゃだめ?

ミュージカル『ヘアスプレー』感想

ヘアスプレー観てきました。
ハッピーミュージカルで楽しかった~!



あらすじ

1960年代アメリカ・ボルチモアに住むトレイシー・ターンブラッド(渡辺直美)は、ダンスが大好きでちょっぴりビッグサイズな女の子。彼女の夢は、大人気のテレビダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」のダンサーになること。そんなある日、トレイシーの元に番組で新メンバーを募集するニュースが飛び込んでくる。オーディションを受けたいと両親に懇願し、心配性でトレイシーと同じくビッグサイズな母のエドナ(山口祐一郎)に反対を受けながらも、自慢の髪型をバッチリ決めてオーディション会場へと向かう。しかし太っているという理由で一方的にオーディションの受験を拒否されてしまい―。
(上記公式サイトより引用)


渡辺直美さんが主演ということで、見た目がピッタリなのは分かるけど歌と芝居はどんな感じなのだろう…と思っていたのだけどとっても良かったです。もちろん発声等は甘いかなと思う部分もあるものの、間で笑わせる台詞の扱い方などはさすがお笑い芸人さんという感じ。直美さんは歌って踊るのに支障が出るからと公演中完全に断食してこのミュージカルで20kg瘦せたらしく、すごすぎる。どの世界でも第一線で輝ける人というのは人より“覚悟が決まっている”人なんだろうな。リンクの三浦くんは、直近で観た彼がグリースだったので私の観る三浦くんいつもこんな感じの役だなとウケた。いや、ちょっとナルシストで悪っぽいけど本質が良い奴なヒーローが抜群に似合うからしょうがない。

***

ちょっと気になったところを話すと、私は映画版も見たことがなく何も情報を知らない状態で観たので、最初シーウィードがなぜ差別を受けているのかが分からなかったです。(何か台詞を聴き落としていたかもだが)オール日本人キャストである限りどうしようもないことだし、ドーランを塗るのも違うと思うので難しいですね。あとこれはどうでもいい話だが警備員にスプレーのディスプレイに触った人間を撃ちなさいとヴェルマが命じた瞬間に「あ!これはなんやかんやでヴェルマが自分で触っちゃって撃たれるオチだ!」と思ったんだけど、当たり前にそんな話ではなかった。そりゃそうだ。


ストーリー展開は全体的に「そうはならんやろw」(だってヘアスプレーで固めて檻を壊すんだよ!?笑)なんだけど、言いたいことは一貫して「見た目や人種の違いで一緒に踊れないなんて馬鹿みたい!」ということで、非常にポジティブで暖かいパワーが感じられる作品だった。
これは日本のアイドル文化に繋がる気持ちかもしれないけど、やっぱり人が笑顔で歌って踊っているのを見ると無条件で元気をもらえるよね。たのし〜〜!!



会場は悪名高きブリリアホールでした、が段差が高くて結構観やすかったです。
最後方の辺りは逆に観やすいやつかな。
あとこれは作品に関係ない感想なんですけど、客層めっちゃ悪かった~~~~~~! 完

ミュージカル『ミス・サイゴン』感想

サイゴンを観劇してきました。
内訳は帝劇3回川越1回(中止1回)。以下感想。


あらすじ

1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーで、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。(上記公式サイトより引用)



予めストーリーと曲は頭に入れた状態で臨んだのでストーリー展開の重さや有名な演出については知っていたのだけど、それでもとにかくパワーに圧倒された。
特にヘリコプターが出てきてキムとクリスが引き裂かれるシーンは唸るようなヘリコプターの音と焦燥を煽る音楽に身体の底からゾクゾクとした。今まで観た舞台の中で一番物理的なパワーと精神的なパワーの相乗効果を感じたシーンだったかもしれない。
(ちなみに埼玉公演では投影でヘリを表現していたので本物の迫力には敵わないな…と思った。実物大のヘリを出せるのって帝劇だけなんですかね?)
決して楽しい話ではないし後味の良いものでもなく、ストーリーやキャラが好み!というわけでもないけれど、公演をやる度に観に行ってしまうと言う人の気持ちが分かりました。

キャラクターについて

「クリスがダメ男」というのはまあわかるんだけど、ダメというより弱い男なんだなと思う。不誠実であるというよりも、支えてもらわないと帰国してからの人生を生きていけなかったのだろう。だって一緒にアメリカに行こうと頑張ったけど無理だったし、キムは死んじゃったかもと思ってたし、キムに子供が出来ていたからってエレンを捨てたらエレンにひどすぎるし、だからといって一緒に暮していくのはおかしいしね。何かしてあげたい(してあげないといけない)から支援しよう、という考えになることを完全に断罪できる日本人ってどれくらいいるのかなーと思ってしまう。実際そうなったらそうなるんじゃないの、みんな。『恵まれた立場』からの視点と言われればそれはそうだけど。

キムはタムをアメリカにやることさえ出来ればどうにかなると思っていたようだけど、当時のアメリカでタムのような子がどんな扱いを受けるかと考えると思わず苦い顔になってしまう。クリスは中間~富裕層だろうから暮らしとしては酷いものにならないと思うけれど、精神的な差別は必ずあるだろうし・・・・とはいえキムとしてはまず『暮らし』なのか。
タムにとってはエレンが懐の深い女性なことだけが救いで、良かったなあと思う。私は観劇中エレンの友達の自我で観ていたので(?)エレンに感情移入していました。私がエレンの友達だったらクリスにめちゃくちゃキレると思う。夫に隠し子がいて元カノが訪ねてきても気丈に対応できるエレンの懐の深さよ。まあ、そんなエレンだから傷ついたクリスの支えとなりゴールインしたのでしょうが・・・・。

何よりとにかくキムが『アメリカに行けば何とかなる』と信じ込んでいるのが見ていて辛かったのだが、何度か観ていて、そもそもトゥイを殺してしまった時点でもうキムの心は壊れていたのかもしれないな、と思った。激動の時代とはいえ少女が人(それもよく見知った人)を殺すってそれくらいのことだよね。キムの絶望の本質的な部分はクリスに妻がいたことじゃなくて、幼馴染を殺してまで守ったタムの未来が保証されないかもしれないということなんじゃないかな~~~。トゥイの亡霊の悪夢のシーンも、トゥイへの罪悪感から救ってくれる存在としてクリスを見ているように感じた。

キャストについて

今回キムのキャストを全員観ることができました(クリスは海宝さんで固定)
個人的な感想としては「表現力の昆キム」「芝居力の高畑キム」「丁寧な屋比久キム」という感じがした。
屋比久ちゃんはとにかく歌詞がノンストレスで聴きとりやすくて素晴らしかった。初見で観るなら屋比久キムをオススメします。
充希ちゃんはキーが高いこともあるのか歌詞が聴き取り辛いところもままあったけども、やっぱり芝居がすごい。他の二人に比べて可愛らしい夢見がちなキムという雰囲気を感じたのだけど、一転してエレンに詰め寄るシーンの迫力がすごかった。
昆ちゃんの凄さは言わずもがな、とにかく歌唱の迫力がすごい。「命をあげよう」にトゥイを殺し自殺するまでの壮絶な母としての覚悟の説得力があった。



***
曲と登場人物の心情が完全にマッチしていて曲を使って観客を当時のベトナムの空気感に引きずり込みヒリヒリさせるのが、これぞミュージカル!と思った。
初見時、帝劇の最前*1でヘリコプターの風を浴びたあの感覚は一生忘れられない観劇体験になったなと思います。

*1:突然自慢しますが初サイゴンを帝劇最前センターで観られたのです・・・嬉

ミュージカル『ガイズ&ドールズ』感想

ガイズ&ドールズを観に行ってきましたよ。
もうめちゃくちゃ記憶が薄れてるんですけど記録として残しておきます。


あらすじ【上記公式サイトより引用】

1930年代のニューヨーク。スカイ(井上芳雄)と呼ばれる超大物ギャンブラーがいた。彼の仲間のネイサン(浦井健治)は自分の婚約者アデレイド(望海風斗)へのプレゼント代と賭場代を得ようとスカイに賭けを申し込む。「指名した女を落とせ」というものだ。「どんな女でも落とせる」と自信たっぷりのスカイだが、ネイサンが指名した女性は、清純で超堅物な救世軍(※)の軍曹・サラ(明日海りお)だった。サラの伝道所が閑古鳥で困窮しているところに、自分と一緒にハバナへ食事に出かければ、罪深い連中を伝道所に連れて行くと持ち掛けるスカイ。教団を救うため、サラはその誘いを受ける。ハバナで過ごすうちに、スカイとサラは次第に惹かれ合っていく。だが、高揚した気分で伝道所へ戻ると、サラの留守をいいことにネイサンが賭博を開催していた。ネイサンがスカイの仲間だと知ったサラは、スカイが自分を連れ出して仲間に賭博場を提供していたと誤解。彼に裏切られたと思い込み…。正反対のスカイとサラ、14年間も婚約中のネイサンとアデレイド。2組のカップルの恋の行方は?


豪華キャストという触れ込みに字面負けせず皆さん素晴らしくて楽しかった~。
そしてこれだけの面子の中に居てもやはり井上芳雄氏のセンター力は別格だな…と理解しました。特に二幕の見せ場のナンバー「LUCK BE A LADY」がすごかった!スカイのヒリヒリとした焦燥感とギャンブルにワクワクする高揚感の相反する感情が伝わってきてこちらも客席で手に汗を握りました。私も何か賭けの場面があったら脳内BGMにしようかな。デジチケの発券のときとか…

印象に残ったのは、とにかく時間の使い方が大胆だなということ。古い作品だからなのかな?OP(という言い方で合っているのかわからない。オーバーチュア?)もダンサーを使ってそんなに時間をかける?!というほどたっぷりと魅せていて時間に余裕がない現代人なのでソワソワしてしまった。逆に最近の作品は要素と情報を詰め込み過ぎなのかなというのも考えさせられた。ナイスリーのビッグナンバー「座れ、船は揺れる」も現代で作られた作品だったらああいう形の長いナンバーにはならなかったんじゃないかなあ・・・・

かと思えば、ラストの展開は私の中では突然の出来事だったんですけど、私だけですかね?(笑)夢オチなのかと思ってカテコが始まるまでドキドキした。夢じゃなかった!(トトロいたもん!)
良くも悪くも古典作品というか、現代とは違う感覚と余裕を感じられる構成で面白かったです。

キャストに関しては良いのは言わずもがななのですが、望海風斗さんのアデレイドがめちゃくちゃにキュートで…どちらかと言うとやはり苦悩の芝居が似合うカッコイイ女性としてのイメージが強かったのだけどキュートなコメディエンヌが予想以上にハマっていて、望海さんに出来ないことはないんか…?!と戦々恐々しました。

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シングルキャストの分公演中止が大きな打撃になってしまい残念でしたが、幸運にも観劇することができてよかったです。「LUCK BE A LADY」耳に残るめちゃくちゃ良い曲だよな~~~!

ミュージカル『CROSS ROAD〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜』感想

水江さんファンの友人に招待してもらい観てきました!
自分発信だと観ないであろう演目であったので観劇できて楽しかったです。




19世紀はまさに音楽に魅了された時代だった。
数多の音楽家が誕生し人々はその才能を愛で
その美しい調べに酔いしれ音楽が世界を支配したその時代に
突如として音楽史に登場し音楽の世界を支配した漆黒のヴァイオリニストがいた
ニコロ・パガニーニ
彼には常にある噂がつきまとった。
悪魔と契約し、魂と引き換えに音楽を手に入れた・・・・と。
街外れの十字路で悪魔アムドゥスキアスと血の契約を結んだ彼は
100万曲の名曲の演奏と引き換えに、命をすり減らしてゆく事になる。
19世紀ヨーロッパの華麗なる音楽黄金期を舞台に
音楽を司る悪魔と悪魔のヴァイリニストと呼ばれた男が奏でるメロディーは
ヨーロッパをそして世界を熱狂させてゆく・・・


バイオリンの才能はあるが天才ではないパガニーニは十字路の悪魔と契約してしまう。
それは自分の命と引き換えに100万回分のバイオリンを奏でること、その曲はすべて悪魔に捧げて弾くことと引き換えに超絶的なヴァイオリンの腕前を手に入れるものだった。
悪魔のヴァイオリニストとなったパガニーニは自身の命を削りながら演奏していく…というお話。観劇後に調べて知ったのだけどニコロ・パガニーニって実在の人物だったのですね(音楽史に疎い)

悪魔と契約してしまい生命を削る…という部分を見るとゴシックホラー的なイメージの作品なのかと思うけれども、観劇後に強く印象に残ったのはパガニーニに対する母からの愛と執事からの愛であり「愛」の作品だな…というイメージを持ちました。

特に母役の香寿たつきさんの歌声は素晴らしかった。いつも香寿さんの歌を聴くとなんだか「宇宙だ・・・・・」と宇宙を感じるのですが(?)今回も愛に包まれた歌声に宇宙を感じました。執事役の山寺さんもさすがの声音のお芝居で声から感じられる暖かさが素晴らしかった。


総合的にはオリジナル新作として演出・美術・音楽に一貫した美しさを感じられるミュージカルで良かったと思う。しかし、荒削りだなーと思うような箇所も多くあり勿体なかった。
特に、パガニーニがナポレオンの妹をどこまで大切に思っているのかイマイチ掴めず…。もう少し2人のロマンスに時間を割いてほしかった。
また、ダンスで表現されていたヴァイオリンの演奏シーンについては、ダンス巧者でのキャスティングではないだろうし『パガニーニの圧倒的で悪魔的な演奏』に説得力がなくなってしまっていたようにも感じたのでダンスにしなくても良かったのではと思う。

曲については全体的に難曲揃いで若いプリンシパルは苦戦しているようにも見えたけども、綺麗でありながら退屈しないメロディの音楽で好みでした。
ただ、これは音響の問題だと思うけど全員ボリュームが小さくて迫力が足りなかったのは残念…。N2Nはクリエの天井吹っ飛ぶんじゃ!?というくらいの音圧を感じたのでハコの問題ではないと思うんだけどな…。

***

例の公演中止の件については、令和の時代にショーマストゴーオンが正しいのかと言われると微妙なところではあるんだけど、ショーマストゴーオンの精神がない演者が特殊な世界であるステージ上に立ち続けるということは難しいのだろうな・・・などと思ったのでした。

舞台『魔法使いの約束 第3章』感想

まほステ第3章観てきた。
久しぶりの2.5次元…さらに特にお目当ての役者がいるわけではない作品ファンとしての2.5観劇は初代ハイステぶりでした、多分・・・


2章は配信で観ていたのだけど*1、3章を観てキャストたちの成長率が凄まじくてびっくりした。生で観た方がいいよね~というレベルではなく技術が上手になっていたと思う。特に賢者役の方、2章のときから良かったけれどかなり歌が上手くなっていて驚いた。
声質が通っていて歌声でもしっかり何と言っているのか分かるのはいいよねえ。あと顔がすごい可愛くて思わずオペラで追ってしまった。まほステは卒業されるので残念だけどこの子は今後活躍していく人だろうなと感じました(どこ目線?)

ストーリーとしてはメインストーリーの後半~ラストの部分。メインストーリーのラストといってもまほやくのストーリーは現行でも謎が明かされていない部分が多々ある…というかほとんどのことがまだ判っていないので、舞台のストーリーでどういうことだったんだ?とこねくり回して考えても無駄なのです。というわけで単純にオタクが萌えた部分の話をします。


・縁あるちゃんのビジュアルが良すぎる
そのまんまなんですけど、本当にビジュアルが完璧すぎる。ミスラさんのスタイルが二次元すぎる。足が長い人間を見ていると、やっぱ人間ってスタイル良い方がカッコイイな~と気づきを得ます。ルチルはシンプルに顔が可愛すぎる。
3章でミスラがチレッタとの約束を思い出したので今後フローレス絶対守るマンになるミスラを舞台で観るのも楽しみ。


・左右の歌がすごい
「俺は左でお前は右」って歌詞を聞いたときそんなことある?!と思ってびっくりした。
というか、元相棒のデュエットになると急になんかロックっぽい感じになって雰囲気が他とガラッと変わるの、「そういうことになってるんですね」って気分になる。


・ヒースの厄災の傷
キャッツ!!!って思った。キャッツ観たことないけど。
まほやくは戦闘シーンの息をつかせぬ展開がすごく格好いいのだけど、やはり舞台で映えるところだなと思った。そのうち舞台化すると思うけど1.5部の中庭組の戦闘が本当にたのしみ・・・


・フィとファ
ここの関係性のオタクなのでフィガロが寿命のことを告げるシーンはすごい緊張して変な汗をかきながら観ていた。人間は興奮しすぎると記憶を失うようなので正直あんまり覚えていない。良かったということはわかる。

フィガロは誰が演じても(私の中で)不満があったろうなと思うのでわごちゃんというキャスティングは絶妙だなと思っている。そしてビジュアル演技力歌唱力の何をとっても矢田ファウストに不満がある人はいないと思う。ここを比較的玄人の二人が演じていてくれていて嬉しいです。

***

会場は銀河劇場。これは会場名とポスターを両方入れようと思ったらなんか寂れた感じになった写真です。

*1:1章は未見

ミュージカル『next to normal』感想


N2N観てきました。2チーム制なので両チーム観たかったんだけれどチケットが厳しかったので好きな役者重視でAチームを二回。曲もストーリーもお気に入りの作品になりました。
以下感想です(普段から特に注意書きしてませんが当たり前のようにストーリーの核心ネタバレしてます)




【あらすじ】(上記公式サイトより引用)

母、息子、娘、父親。普通に見える4人家族の朝の風景。

ダイアナの不自然な言動に、夫のダンは優しく愛情をもって接する。息子のゲイブとダイアナの会話は、ダンやナタリーの耳には届いていないように見える。ダイアナは長年、双極性障害を患っていた。娘のナタリーは親に反抗的で、クラスメートのヘンリーには家庭の悩みを打ち明けていた。

益々症状が悪化するダイアナのために、夫のダンは主治医を替えることにする。新任のドクター・マッデンはダイアナの病に寄り添い治療を進めていくが・・・。


このミュージカルの素晴らしいところはまず何と言ってもロックミュージカルの名にふさわしい曲の格好良さだと思う。登場人物の感情の揺らぎが生バンドの演奏とともに爆発して観客を無条件で作品に没頭させてくれる。
トニー賞のパフォーマンスにも使われているけどYou Don’t Know~I Am the Oneの流れが最高。しかもその後にSuper Boy and Invisible GirlI’m Aliveと続いていくのって強すぎる。BW盤のサントラがサブスクにあると思うのでぜひ聴いてみてほしい。たとえ話がわからなくても音楽アルバムとしてカッコイイから…。ちなみに新演出で若干歌詞が変更されたけれども海宝直人さんの歌う日本語Verの『I’m Alive』も配信されています!

とはいえ、曲が格好いいだけのショーミュージカルだったのかというとそうではなく芝居の比重も高い作品だった。

ダイアナは双極性障害を患い躁鬱を繰り返していて、生後八か月で亡くした息子、ゲイブの成長した姿の幻覚をかなりはっきりと見ている。夫のダンはそんな彼女を献身的にサポートしてはいるが、根本のところで彼女の苦しみを理解していないように見える。一人娘のナタリーは、自分を見てくれない両親に苦しみ、自分もいつか母のように狂うのではと恐れている。
私は初見時、ゲイブを元気なトート(I’m Aliveでの“圧倒力”の印象が強すぎた)だなあと思ったのだけど、二度目はゲイブ中心に話を追ったからか「ダンとダイアナの息子であるゲイブ」だ!と強く思った。I Dreamed Danceも初見では死への誘惑という印象が強かったけど、二回目は母を救うにはこうするしかないとゲイブもまた傷ついているんだ…!と思って泣いた。ゲイブの自我ってどうなんだろ。どこまでがダイアナが介入して創造したゲイブでありどこからがゲイブ自身の自我なのか。電気療法を受けてゲイブの記憶を失ったダイアナに寄せる悲しみはゲイブ自身のものであるはず。そもそも、『ゲイブはダイアナが見ている幻覚である』というのは医学的に考えた見地であり、『存在しない』証明はなされていない…この辺はあと50回くらい観て考察したいところですね。

ちなみに劇評や感想を読んで自分の解釈とひとのそれが全然違っていて驚いたのはI Am the One(Reprise) からラスト。私は「ダイアナを失って今度はダンがゲイブに救いを求めて狂っていくんだ…だから二人は最後赤い服を着ているしLightは不協和音なんだ…苦しみの輪廻は終わらないんだ!!」と脳直で思ったんだけど、ダンがゲイブの存在を認めたことでゲイブは救われて消えた…という解釈もあるみたい。私はフィクションを地獄の方向に解釈するクセがあるなと反省した*1



偶然にも「アメリカが舞台で息子を亡くして傷ついている妻とサポートする夫」の構図が前回観た『ラビットホール』と同じだったのだけど、ラビットホールはストレートプレイで観れて良かったと思ったのに対してN2Nはミュージカルで良かったなあと感じた。おそらくストレートプレイで観ていたらダイアナに感情移入出来なかっただろうな…。登場人物の内面世界に曲と歌のパワーで引っ張っていってもらえるのがミュージカルの醍醐味だと思う。あと曲が流れるとすぐにシーンを思い出せるのもミュージカルの強みだよね。サントラを聴きながら早く再演してほしい…と思いを募らせています。

**

会場はシアタークリエでした。地下が苦手なのでなんとなく苦手意識があったんだけど徐々に好きな劇場になってきました。やっぱりコンパクトなホールの方が好きなんだよなー。

*1:フィクションにおける「地獄」「救いのなさ」「後味の悪さ」大好きガールです

舞台『ラビット・ホール』感想

ラビット・ホール』観てきました。
ミュージカル中心の役者さん方を応援している関係で観る演目がミュージカルに偏りがちなのだけど、しみじみとストレートプレイも好きだなあと感じられる観劇体験でした。



【あらすじ】(上記公式サイトより引用)

ニューヨーク郊外の閑静な住宅街に暮らすベッカとハウイー夫妻。

彼らは8カ月前、4歳だった一人息子のダニーを交通事故で失いました。ダニーとの思い出を大切にしながら前に進もうとする夫のハウイー。それに対し、妻のベッカは家の中にあるなき息子の面影に心乱されます。そのような時にベッカは、妹イジーから突然の妊娠報告を受け戸惑い、母のナットからは悲しみ方を窘められ、次第に周囲に強く当たっていきます。お互いに感じている痛みは同じはずなのに、夫婦・家族の関係は少しずつ綻び始めていました。

ある日、夫妻の家にダニーを車で轢いたジェイソンから手紙が届きます。会いたいというジェイソンの行動に動揺を隠せないハウイーですが、ベッカは彼に会うことを決意します。



「お互いを愛して思いやっていて」「息子のことを愛していて」「息子の死を哀しんでいる」と共通していても哀しみ方の違いからどうしようもなくすれ違ってしまうハウイーとベッカ。ハウイーは折に触れ息子の動画を見返し思い出の品を目に触れるところに置いておきたいと思っていて、思い出を大切にしながらも前へ進みたいと考えている。一方のベッカは息子の面影があるものに目を触れたくないし、まだ前へ進むことも考えたくない。
この違いをインタビューで万里生さん*1は男女の違いなのかなと話していらしたけど、どうなのだろう。男だ、女だ、で当てはまめるのもナンセンスな時代だけれども自分は確かにベッカタイプかもしれないなとは思う。

また、息子の死に対する捉え方の違いもあると思う。二人の息子は飼い犬を追いかけて道路に飛び出したところを車に轢かれてしまい亡くなってしまったのだが、ベッカは自分が電話をしていて息子を見ていなかったことを悔やんでいて、さらにより直接的な原因は犬が道路に飛び出したからだと思っているように感じた。彼女は息子を轢いた車を運転をしていたジェイソンに会うことに前向きでありまだ少年であるジェイソンに思いやりも見せる。対照的にハウイーはジェイソンに対して苛烈で、ジェイソンに悪意はなく事故だったと理解はしていても納得できていないようだった。
ジェイソンとの邂逅は物語の中~後半に起こるのだが、カウンセリングセミナーにも行かず友人とも連絡を取らずに危うい妻とそんな妻を献身的に支えている夫…という印象だった前半から対照的にベッカの強さとハウイーの弱さが浮き彫りになってくるのが印象的だった。

現代劇のストレートプレイは台詞の応酬に観客を没頭させることができるかが鍵だと思っているのだけど、冒頭から小島聖さんのナチュラルな芝居により現代アメリカの世界観に引き込まれた。脚本にテレビドラマを数多く手掛けている篠﨑絵里子氏が担当されたということで舞台の言い回しすぎない日常的な台詞での台詞劇であったところも良かったと思う。ミュージカルだとどのようなテーマであってもどうしても『非日常』になってしまうので(もちろんミュージカルはその機能が面白いところなのだが)、全く自分の日常との地続きに錯覚させられるストレートプレイはやっぱり面白いなあと痛感した。
昨年観劇した『ブライトンビーチ回顧録』に続き小山ゆうな氏の演出作品を観るのは二度目だったのだがどちらもとても感激したので小山氏の演出作品はチェックしていこうと思う。

と、真面目な感想はここまでにして以下は脳直の感想なのですが、ハウイーがめちゃくちゃメロメロだった!!!!2022年度結婚したい男No.1です。おめでとうございます。*2
インテリジェンスで優しくて穏やかで清潔感があって犬好きで思いやりがあって妻の家族も大事にしていて休日は友達とスカッシュする陽キャなの、良すぎる。不倫未遂疑惑もありましたがフィクションの登場人物としてはそれくらい弱さがある方が魅力的なのでオッケーです(しかしちょっと惹かれて一緒に食事は行ったけどそれだけなのかなーと思った。同じ痛みを感じてる同士で一瞬傷をなめ合ったんだろうな、という所感)
というか、スマートにスーツを着こなしつつ座り方とかは男っぽい万里生さんが格好良すぎてメロメロだったのだけど、ご本人から所作にグリブラ*3でまあ様*4から教えてもらった宝塚男役の極意を実践していたと明かされて、つまり宝塚はメロメロなのかもしれない・・・と思ったのだった

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会場はKAAT神奈川芸術劇場大スタジオでした。
大スタジオだから大きいところなのかと思ったらキャパ500くらいのコンパクトな劇場でした。KAATでやってる作品は興味深いのが多いんだけど神奈川遠いんだよなー。

*1:ハウイー役

*2:今年この後観に行くのはサイゴンとエリザの予定なので彼らは結婚したくはない男たちだと分かっている

*3:WOWWOWのミュージカルバラエティ番組

*4:朝夏まなとさん