犬と狼の間

え?遊んで食べて寝てちゃだめ?

舞台『僕はまだ死んでない』感想

この作品について感想を書くのが難しくて、自分自身が何を感じたのかがよくわからない。大枠で見ると「終末医療の葛藤の話」なのだが、セット床に敷き詰められている砂や、鯉の話や、直人の独白が現実的なテーマにファンタジー感をプラスさせていて自分の視点をどう持っていたらいいのか分からなくなり戸惑ったのだと思う…。というわけで、あまり考えがまとまっていないし良いことも言ってないのだけど感想。



あらすじ

壁に包まれた病室。父と女医。それに僕の友人とが話をしている。体が動かない。何が起こったのか。
女医は淡々と「元通りになる可能性はないし、むしろ生き延びたことを奇跡だと思ってほしい」と話す。
なるほど、そういうことなのか。
奇跡的に意識が戻った後も、かろうじて動く眼だけで意思疎通の方法を採る。なにかと気にかけてくれる友人、そんな状態の前でかまわず女医を口説く父、戸惑う女医、そこへ離婚調整中の妻が面会にやってくる…。


物語は画家の直人が自宅で病に倒れることから展開する。意識を取り戻した直人は、全身が動かせなくなっていた。彼は唯一動かせる眼でシートに書かれた文字を追い視線を動かすことで自分の意思を伝えるようになる…のだが、そこで直人が伝える自分の進退への意思が碧*1に対してと妻*2に対してとで180度違うのが気になった。

碧に対しては『碧の番 鯉埋めて』と直接(視線で)伝えており、これを碧は「幼いころ自分が直人に鯉を殺させて埋めさせたことになぞらえて次は自分が直人の医療を止める決断をしろ」という意思だと判断する。
一方で妻に対しては、視線で伝えた言葉を父に代筆させ、手紙という手段で「自分を見捨てないでほしい(これは大分テキトーな要約)」ということを伝える。
この矛盾は何なんだろうと考えて、碧が『碧の番 鯉埋めて』と読んだのは要はこっくりさん現象で、自分がそうであってほしいという方向(碧は、幼い頃に鯉を殺させたことを罰されたい&直人は絵が描けなくなるならば死んだほうがマシだと思っている、と考えていると感じた)に無意識下に誘導したのかなとも考えたけれど、ぴったりとしっくりはこない。

また、セリフからなんとなくの推察はできるものの、直人がどこまで絵を愛していたのかだとか碧と直人の信頼関係の深さだとか夫婦がどんな様子だったのかだとかそういう部分が表現されないままに進むので、えっこれで終わり?という気持ちになってしまった…。
砂や鯉に対しても自分で納得のいく解釈が取れずに消化不良。集中を保つことが厳しい場面もあったので単に私が何か重要な情報を見落としているだけなのかもしれませんが。
とは言え駄作と感じたわけではなく、いわゆる「それでも生きてゆく」というような現代的なテーマをしみじみと感じさせる作品だった。現代では悲劇がラストを飾るのではなく、悲劇の後どう生きていくのかがテーマとなるのだな。


と、ここまで書いてから単純に私が木下さんの演出と相性が悪いんだわ、と気が付いた。原作を偏愛しているのにハイステにハマれなかったし・・・*3

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碧役と直人役がスイッチだったのでどちらも観てきたけど、碧:上口さん/直人:矢田さんがしっくりくるなーと感じた。演技云々というか、単純に年齢が合っているからそう感じただけですね。

***
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博品館劇場、何度か行ったことあるのに銀座からより新橋からの方が近いと初めて気が付いた。

*1:幼馴染で直人の兄貴分。主役の一人でもあるので碧の物語でもある

*2:画家の仕事に集中するあまりないがしろにしていたので離婚調停中

*3:人気が高いのは知っているので私の問題

2021年観劇まとめ

今さらですが2021年の観劇まとめ。
少ないし月毎にまとめているからいいかなと思ったものの、やはり(自分が)一括で見れた方が便利なので、、いきます!

ルール

  • イベント・コンサートは除く
  • 舞台作品の配信は入れる 
  • タイトルの横に回数
  • Wキャストのものは観たキャストを記録


***

4月

舞台『WELL~井戸の底から見た景色~』(1)
@新宿村LIVE

5月

ミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(1)
新国立劇場 中劇場

6月

ミュージカル『マタ・ハリ』(2)
柚希・田代・三浦(1)
愛希・田代・東 〈配信〉(1)

@東京建物Brillia HALL

9月

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー(2)
木村・加藤・堂珍(1)
小野・松下・加藤(1)

日生劇場

10月

舞台『ブライトン・ビーチ回顧録(1)
東京芸術劇場 プレイハウス


ミュージカル『ドン・ジュアン(1)
赤坂ACTシアター

11月

舞台『魔法使いの約束 第二章』(1)〈配信〉

ミュージカル『グリース』(1)
@シアタークリエ

12月

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(1)
平方・田代(1)
@よみうり大手町ホール


シンる・ひま『明治座で逆風に帆を張・る!!』(1)
小野田・松村(1)
明治座



***
というわけで計10作品12回でした。
観劇好きと称すにはいささか少なすぎますが、個人としては観たものを大事にしてほとんどに感想も記せたので満足しています。
今後もこんな感じでやっていきたい…。

そして反省点としては上半期に2020末のショックを引きずっていて芸能情報を閉じていたために配信ですらスリルミーを見逃したことですね・・・・・・・!

2022年はすでに2021年よりかは総数が増えそうなので楽しみです。とりあえず自分もみんなも元気で中止になりませんようにと祈っております。

月記 2021/12

12月のまとめ。
食べた、観た、行った、買ったのごちゃまぜ記録。

グラコロ

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トピック立てするほどのことか?とは思うものの写真が残っていたので載せる。
マックはダブルチーズバーガーが一番好きです。


ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』観劇

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感想はこちら。
平日18時開始に間に合うか不安すぎて無駄に午後休を取得してしまった。

・煮込みハンバーグ
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昼夕ご飯。店名失念。
この頃まだぬいを得ていないので缶バッジと写真を撮っている。


シュトーレン

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クリスマスの気分になってきました。
良いとこのやつは良いだろうという安易な理由でロブション。


まほやくアニバーサリーストア

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イメージフレグランスが欲しすぎて代行をお願いして購入してもらった*1
これが本当に「キャラクターが纏っていそうな香り」がするので解像度が上がってドキドキする。ちなみにそこそこなお値段がするのだが爆売れしていて経済を感じて良かった。


伏黒恵誕生日

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好きなキャラの誕生日はケーキを食べる良い口実なのだが、五条12/7恵12/22巽12/28ファウスト1/13は続きすぎである。


映画『劇場版 呪術廻戦0』

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公開を楽しみにしていた映画!張り切って公開日に観てきた。
オリジナルパートもファンが観たかったシーンを入れていてくれてMAPPAは分かっているなあと満足。2期も楽しみ。

・五右衛門
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ぬいを手に入れた。この後こいつの映り込み率が高まります。


クリスマスケーキ

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フレデリック・カッセルのプロンテ・ノエル。
レアチーズケーキとピスタチオのベイクドチーズケーキが層になっていてとても美味。
構造はこちら
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ミュージカル『シンる・ひま』観劇

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昨年に引き続き観劇納めに祭シリーズ。
2部は爆笑だったし相変わらず笑いのツボが同じなところは良かったのだけど、今回は如何せんストーリーについていけなかった。
理由は単純で、私が日本史(特に江戸以前)に明るくないことと、ミュージカルなのにほとんどの役者の歌の歌詞が聞き取れないことだったと思う。つまり半分は完全に私が悪いですね。
歌詞については、まずおそらく明治座がミュージカルに適していないのだと思う。
バックの音が大きく、役者の歌声がこもって埋もれて聞こえた。しかしその中でも小野田さんの歌声は聞きやすかったのでさすが実力を感じました。ミュージカルに適しているハコとは、歌声とは、歌い方とは・・・ということを考えた観劇だったな。作品関係ねえ。

・ブラザーズ
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グルメバーガーも大好き


年越し

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年越しそばを取り寄せた。
久しぶりに紅白をちゃんと観たりして自宅でのんびり過ごしました。
年を越す瞬間だけジャニーズカウントダウン観ながらiPadであんスタのカウントダウン観てえらい忙しかった。


***
2021年、完!
総括すると、呪術!ミュージカル!あんスタ!まほやく!という1年でした。
2020年以前の自分が見たら卒倒するレベルで広く浅くオタクになってしまっているな*2と思うものの、気が変になるくらい一つのものに夢中になる、ということはもうやり切ったのでいいかなあとも思っているのでした。

*1:とっくに入店抽選の期間が終わっていた

*2:最近はここにワートリも加わっている

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』感想

SOMLを観てきました。
昨年12月のことなのでもうかなり曖昧な箇所も多いんですけど、この観劇は記録しておきたいと思ったので感想を書きます。

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あらすじはこちら(公式サイトより)

この作品は、故郷を同じくする2人の男、トーマスとアルヴィンの友情の物語である。
トーマスは、長年の友であるアルヴィンの死に対して弔辞を書くために、自分の心の中に広がる空想世界でアルヴィンとの出会いからの転機を一つ一つ語っていく。
アルヴィンは、その追憶の旅の中でトーマスを導くために、彼の心の中にある物語を探し回る。



機械的に理解すると「自殺*1した幼馴染の葬式で読む弔辞を書きあぐねているベストセラー作家の男が脳内で幼馴染と共に過去の思い出を回想していく物語」であった。つまり、登場人物としてのアルヴィンはあくまでトーマスのイメージするアルヴィンなのだ。トーマスのイメージするアルヴィンなので当然ながらトーマスが知り得ないことは知らない。アルヴィンの自殺の動機も、自殺じゃなくて事故だったのかどうかですら、最後までわからない。

しかし、トーマスは、何度も語ることを途中で断念してはリフレインされる『アルヴィンの死の一週間前、最後に二人で会ったところ』の出来事がアルヴィンの自殺(と、トーマスは理解しているように見える)の最後の一押しになったのではないか…と感じているように思う。
その日、トーマスは頼まれていたアルヴィンの父の弔辞を自分の言葉で書き上げられなかった。
「僕はきみに頼んだんだ。引用じゃなくて自分の言葉で書いてほしい、書こうとしてほしい!」と縋るアルヴィンを「無理だ」と突き放してしまうトーマス。というのも、トーマスはスランプに悩んでいて、それはこれまで称賛を得てきた物語の着想を『故郷でアルヴィンと過ごした日々』から得ていたということを本人が気づいていない、というよりも認めたくないからであった。
もちろん、トーマスが自分との思い出を小説にしていることに気が付いているアルヴィンは、故郷を否定するトーマスに「きみはここでの出来事を紡いで素晴らしい仕事につなげたんじゃなかったの?」と詰問する。それはトーマスにとって本当に突いてほしくない痛いところで、そこを突いてほしくないと彼が思っていることがアルヴィンにとって何より痛いんだということが辛い。
「弔問客が待っているから自分で弔辞をなんとかするよ」とアルヴィンは、弔問者の前で父との思い出を語り始める。即興でとめどなく語るアルヴィンを見て、トーマスはようやく自分の作品はアルヴィンのおかげでできていたということを受け入れられるのだが、それが二人の最後の邂逅であり、永遠の別れになってしまったのだ。

「君の頭の中には、何千もの物語があるはずだよ!」と冒頭からアルヴィンは何度も繰り返す。アルヴィンの死の真相を教えてくれ!それがないと弔辞を書けない!と訴えるトーマスに「君の頭の中には何千もの物語があるはずだよ。そこにない物語を探さないで」とも語りかける。トーマスは、アルヴィンが死んでしまったことが悲しくて、怖くて、それ以上にある種の納得もしていて、更に言えばその理由に己が関わっているんじゃないかと思っていて、それが恐ろしくて本当のことを知ってしまいたい!と思っているように感じた。

アルヴィンと共に記憶の扉を旅しても、そこにない物語はわからない。アルヴィンの「君の頭の中には何千もの物語があるはずだよ。そこにない物語を探さないで」という言葉は、わからないことを恐れなくていい。無理に語らなくても君の頭の中にはもう物語があるでしょう?と言っているように響く。ラストにトーマスは弔問客の前で、自分の言葉で自分の中にあるアルヴィンの物語を語りはじめる。

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これは、トーマスが自問自答し幼馴染の死を受け入れ自己救済した物語なのだろうか。確かに、結局アルヴィンの死の真相はわからないし、もちろんアルヴィンは生き返らないし、生前にアルヴィンとトムはすれ違ったまま永遠の別れを迎えてしまったことも変わらない。しかし、それだけではないように感じる。

「人が死んだら、良いことを言うんだよね」
「弔辞っていうんだよ」
「君が僕に書いてくれたら、僕が君のを書くよ」
「そんなことできる?」
「あ、そっか…じゃあ、どっちか先に死んだほうのを書くっていうのは?いいよね?」
「うんって言ったら、帰っていい?」


印象的に繰り返される、幼いころにアルヴィンとトーマスが交わした約束のシーンである。父への弔辞を語るアルヴィンからも分かるようにアルヴィンにとって弔辞は、故人との思い出を語りあなたが大好きだと伝える、いわばラブレターのようなものだったのではないかと思う。つまりトーマスが自らの言葉でアルヴィンへの弔辞を語ることはアルヴィンのためのラブレターを語ることで、それは、アルヴィンが一番欲しかったものなのではないだろうか。

また、先に書いていたことに矛盾するが、トーマスが知らないアルヴィンの物語をアルヴィン自身が語るシーンがある。追憶の旅を共にするアルヴィンはトーマスが作り上げた自分の中でのイメージではなかったのか?アルヴィンがトーマスのために降りてきたのか?トーマスがアルヴィンの精神世界に溶け合ったのか?真実はわからないし、わざと様々な解釈ができるように作り上げているのだと思う。それこそ、語られない物語はわからない、それでいい、ということだろう。

この物語を暖かいハッピーエンドと捉える人もいれば、死者は語らない残酷な物語だと捉える人もいるだろうと思う。美麗な音楽とクリスマスシーズンの空気も相まって、私は神聖で哀しく優しい話だと思った。

***


前回スイッチキャストで公演した今作、今回はWペアのWキャストでの公演でした。
そして新キャストとして選出されたのが2.5次元でも馴染み深い太田さんと牧島さんで、2.5次元俳優だと思って推していたらこんな良い作品に出てくれるの良すぎない!?と羨ましかったです。まあ、チケ難なので普通に手に入らず若手ペアは観れていないんですけどね。オタクの皆さんは推しを誇りましょう。


すべての曲が美しくて、何回でも観たいような、この一回を後生大事にしたいような、そんな観劇体験でした。ちなみに、『素晴らしき哉、人生!』を観ると解釈がさらに深まるそうなのですが(というか観ていないとよく分からないところが多いのですが)私は観ていないのでよくわかりません。万里生さんがわざわざ要予習とブログでリコメンドしてくれていた*2のにも関わらずサボっていました。再再演があれば課題としたいと思います。

*1:ただし真実は判然としない

*2:万里生さんはマメにそういうことをしてくれる俳優さんでシンプルにしごできだ…と思います

ミュージカル『グリース』感想


ミュージカル『グリース』を観てきたので感想。
総評すると、ストーリーの大半は「高校生ってこんなものだよなあ」であり、何かを深く考察したり感動したりするようなものではなかったのだけど、その分意識を歌とダンスを楽しむということに全振りできた。エンターテインメントって楽しい!と心からスタンディングオベーションできた作品でした。

あらすじはこちら

舞台は50年代のアメリカ。サマー・バケーションで知り合ったダニーとサンディは恋に落ちる。
二人の恋はひと夏で終わった・・・はずが父の転勤でダニーと同じ高校に転校してきたサンディは突然の再会を果たす。喜ぶサンディだったが、ダニーの様子がおかしい。グリースでばっちり固めたリーゼントに革ジャン・・・実はダニーは高校を牛耳る“T−Birds”と言う不良グループのリーダーだったのだ。一方ダニーも、自分がキャラに似合わない品行方正な優等生と恋に落ちたことを仲間に隠すためにサンディのことを知らないふりをする。そのことにサンディはひどく傷つくのだった。そんなサンディに女子の不良グループ“Pink Ladies”から誘いの声がかかるー。



結局優等生のサンディが不良になることで大団円を迎えるというストーリー展開は正直、えっそうなるの!?と思ったし現代が舞台だったらもはや企画段階で通らないんじゃないかとすら思うが、1950年代のアメリカが舞台であることを前提として、まあ、サンディは心の奥底で不良に憧れてる系優等生だったんだなあ…と思うとなんとか腑に落ちた。それよりも個人的にはリッゾの妊娠疑惑のエピソードの方が気になった。勘違いだったらそれでハッピーなのか?きっとサンディとリッゾが仲良くなるというためのエピソードなのだろうと思ったけど、処理が雑すぎてなぜあれで心が通じ合うのかも伝わらなかったな…

全体的にエピソードのまとめの処理が雑で投げやりにまとめたような印象を感じるが、映画版*1の批評を見ると同じような意見の批評が多いので、今回の演出どうこうではなくこの作品自体がやはりストーリーを深く味わうというよりもキャッチーな音楽を楽しむという方に重きが置かれている作品なのだろうと思う。

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というわけでストーリーに対する感想はとくにないのだけど、役者の熱量とパフォーマンスは素晴らしかった。
ダンスナンバーはお互いに「自分はここまでできるぞ!」と見せ合い高め合っているように感じられて熱かった!なんとなく全体を通して『協調』というよりは『競争』*2という感じがするカンパニーだなあ~と感じたのだけど、若く才能のある役者たちが自分の武器を全力で奮いながら切磋琢磨している様は観ていてなんとも爽やかだしすごくいいな。もちろん若い方がいい!というわけではない*3のだけど、今作はそれがよく作品とマッチしていてストーリーだけなぞると惚れた腫れたの下ネタだの…というだけの話がなんとか若さゆえのイタさや熱さを感じさせるものになっていたと思う。

あと、ミュージカルって何気にあまり踊らない気がするので*4ここまでしっかりとダンスができるのは役者さんたちも楽しいんじゃないかな~と思ったしファンの方は嬉しいだろうなとも思った。普通に羨ましい!私のお目当てはゲスト枠(?)だった上口さんなのだけど、上口さんはものすごく踊れる方なので上口さんのダンスも見たかった~~という気持ちに包まれたのでした。

***

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シアタークリエ、ものすごく久しぶりだった気がする。頭が痛くなるイメージがあって苦手だったんだけど今回は平気でした。席によるのかもしれない…。

*1:未見

*2:良い意味で

*3:私のお目当ては中堅だし…

*4:なんならアイドルものの2.5とかの方が踊るまである

ミュージカル『ドン・ジュアン』感想

ミュージカル『ドン・ジュアン』観劇してきました。
予習なし、宝塚版未観劇の人間の感想です。

あらすじはこちら

スペイン・アンダルシア地方。赤い砂塵の舞うセビリア
そこにあらゆる女を魅了して、悪徳と放蕩の限りを尽くす男がいた。
男の名はドン・ジュアン。彼は今宵も欲望の赴くまま、騎士団長の娘を毒牙にかける。
娘を穢されたと知った騎士団長は激怒し、決闘を挑むが、
彼は騎士団長をせせら笑うかのようにその剣をかわし、相手の命を奪う。
それが愛という名の呪いを招くとも知らず……。


正直に言うと、ドン・ジュアンにもマリアにもまったく共感できないのが辛かった。終始とにかくラファエルが可哀想すぎる!と憤慨しながら見ていたので、ラストの悲劇も因果応報…という気持ちにしかなれず。
おそらくドン・ジュアンとマリアの恋の過程が急加速すぎる(舞台の尺ではしょうがないのだけど)のと、ドン・ジュアンへ恋をした後のマリアに魅力を感じられないことが原因かな。

マリアはドン・ジュアンと恋愛した後、それまでとても大切にしていた彫刻の仕事も放り出しているし、元婚約者であるラファエルの生死すら確かめずジュアンにも伝えない。ラファエルと違って彫刻の仕事を認めてくれるジュアンに惹かれたんじゃないの…?いくら気持ちが冷めてきていたとはいえ婚約者が亡くなってしまったら確認して弔わない…?と思ってしまい、あまりマリアに感情移入できなかった。
「愛は呪いだから」*1と言われてしまえばそれまでなのだけど、それまで大切にしていたものや価値観を踏みつけてまでそれにのめり込むことを肯定したくないな。なんだか、そんな男やめなよ!と思うような彼氏にのめり込んで生活が崩れていく友人(架空)が脳内に現れてしんどくなった。
ちなみに、ドン・ジュアンに対しては最初から最後まで何だこいつと思っていました。それまでに傷つけた女の精算もしないで自分だけ幸せになろうなんて虫が良いのだ・・・私も騎士団長なのかもしれない。

そして傷つけられた女の筆頭といえば、ドン・ジュアンにワンナイトされ、その行為中にした「結婚する」という約束を信じて「自分はドン・ジュアンの妻だ」と言い張るがジュアンには見向きもされない女…というキャラクターである修道女のエルヴィラ。もちろん修道女に手を出したジュアンが悪いのだが、視線すらほとんど向けられないのに「妻だ」と言い張る執着がとても恐ろしかった。彼女はそう信じていないと自分自身も尊厳も保てなかったのだろうな。でも現代だとストーカーと呼ばれる気質だな、と思った。

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別に共感=面白さではないと思っているのだけど*2、主人公というか、物語の主軸として好意的に語られる存在に愛が持てないと作品をフラットに見られない、という学びを得ました。

***

先にマイナスな感想を書いてしまったけれど、キャストは皆さんとても良かった。
タイトルロールのドン・ジュアンを演じていた藤ヶ谷太輔さん、舞台のイメージがないのでどうなのだろうと思っていたけれど想像以上に良かったです。
ジュアンは登場から第一声を発するまで無言の時間がかなり長く、その間表情やダンスのみでしか表現しないのだけど、存在感とオーラで場をもたせることができていて「ジュアンは人々を魅了する男」であるという説得力があった。
また、それによって溜めに溜めて出す第一声がかなり際立ち、鳥肌が立った。マリア役の真彩さんを始め実力揃いのキャストに囲まれていたけれど、歌もダンスも見劣りしなかったよ~。

ちなみにお目当ては上口さんだったのだけど、全く予習していなかったので何故か勝手にコメディリリーフ的な役回りだと思っていたら全然真摯に格好いい役で動揺した。しかし上口さんって『主人公の友達』ポジションが異様に似合うのはなんなんだろう。今回も良かったです。

***

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赤坂ACTシアターは外の大看板がめちゃくちゃ良いよね。新しく劇場作るならどこも導入してほしい。こちらは藤ヶ谷さんのファン(めっちゃいっぱいいるし、年齢層も幅広くて感心した)に遠慮してものすごく端から撮った写真です。

*1:この物語は、愛娘を弄ばれた挙句に決闘で敗れ殺された騎士団長がかけた「愛が呪いになる」という呪縛が大きなモチーフ

*2:むしろ「共感できる=良い」みたいな風潮はどうかと思っている

舞台『ブライトン・ビーチ回顧録』感想

『B・B回顧録』観てきました。すっっごく好きな作品だった!

アメリカ・ブロードウェイの大御所コメディ作家ニール・サイモンの三部作、『ブライトン・ビーチ回顧録』『ビロクシー・ブルース』『ブロードウェイ・バウンド』。B・B三部作と呼ばれるこれらの作品は、ニール・サイモン自身を思わせるユージンを中心に描かれる青春成長物語で、ニール・サイモンの新境地を開いたといわれる作品です。


『ブライトン・ビーチ回顧録』は、サイモンの少年時代を描いたとされていて、何か大きな激動が起こるわけではないが日々小さな衝突や失敗を繰り返しながらも家族の結びつきを強めていく姿が、自伝というよりもむしろエッセイのような雰囲気にも感じられる暖かい作品だった。


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 驚いたのは1930年代の物語でありながらも古臭くは感じず、現代の家族や兄弟と共感できる瞬間が多々あること。ユージンの母『ケイト』の妹『ブランチ』は、夫に先立たれ娘二人とともにケイト宅へ居候している。従姉の『ノーラ』は美人で女優志望。ブロードウェイで女優になると言い出し、その妹『ローリー』は病気がちで家事の手伝いを免除され本を読んでいるばかり。兄の『スタンリー』は社長とのトラブルで失業しそう。父『ジャック』は家族のために身を粉にして働いているが過労で倒れてしまう。度重なるストレスでついに母は居候している妹にヒステリーを爆発させてしまい…というエピソードがあるのだけど、これを全然「過去の世界の話」に感じなかったのだ。

まあ、さすがにいとことはいえ思春期の兄弟と姉妹を同じ屋根の下に住まわせることはないかもしれない(実際、性に目覚めはじめたユージンは美人のノーラにムラムラする)が、「家族のために負担が増える:家族がいるから頑張れる」みたいな構造は不変である気がする。

 結局ユージン一家は家族みんなで頑張る方向に舵を切るし、共生しないと生き延びられなかったであろう1930年代においてはそれが正しいのだと思う。しかし、『ひとりでも生きていける』ようになった現代では、それが絶対の正解ではなくなっていろんな社会問題が生まれているんだろうなあ…などと考えた。私は共生が全然得意じゃないので現代に生まれて良かったのだけど、こういう命題はきっと何年経っても変わらないのではないかな。

***


作品から話が逸れたけど、今作はそういう家族の機微を14歳のユダヤ人の少年『ユージン』の視点から描いている。何を隠そう今回はこのユージン役の佐藤勝利君を目当てに観に行ったのだけど、勝利くん、すごく良かったです。

勝利くんの芝居って、技術がどうとかよりも「佐藤勝利という存在を完全に消し去り役で在る」ことが素晴らしいと思う。あの国宝とまで言われる顔立ちでアイドルグループのセンターでありながらも、その辺にいる普通の少年にしか見えなくなる…これは頑張ったから出来るとかいう話ではなくて持って生まれたものだと思うのだけど、めちゃくちゃ武器だと思います。(ちなみに最近で言えばキンプリの神宮寺くんのお芝居にも同じものを感じた)

 そして兄の『スタンリー』を演じた入野自由さんもすごく良かった。スタンリーは家族のために頑張っていて頼れる良い兄貴なのだけど、あまり頭が良くなくて賭博でお金を失ってしまったりもするし、スタンリー自身も自分の能力が頭打ちだということも理解している。その中で、誰よりも早く弟ユージンの才能に気が付いて慈しむ姿が切なくも暖かくてじーんとした。

入野さんと勝利くんって並んでいても全然兄弟には見えないと思うのだけど、作中で二人はどこからどうみても兄弟で、同志で、ソウルメイトのようでもあった。兄弟姉妹ってやっぱり親子とはまた違う絆なんですよね。今作はユージンの目から見た世界の話なのでスタンリーとの関係が深く描かれているけど、きっとノーラとローリーにもまた違った絆があるのだろうな。

***

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今回は勝利くんの主演ということで勝利くんのちょっこりさん*1と一緒に写真を撮っている若い女子をたくさん見かけて微笑ましかった。おそらく初観劇がこの作品になったという方も多かったんじゃないかな~。
個人的にはやっぱりワンシチュエーションのストレートプレイが好き!と再確認しました。いや、もちろんミュージカルも壮大なやつも好きなんですけど、定期的にこういう作品は観ていきたい。とりあえず、来年の万里生さんのストレートが今作と同じく小山ゆうなさんの演出なので楽しみにしています。

*1:ぬい