犬と狼の間

え?遊んで食べて寝てちゃだめ?

舞台『ラビット・ホール』感想

ラビット・ホール』観てきました。
ミュージカル中心の役者さん方を応援している関係で観る演目がミュージカルに偏りがちなのだけど、しみじみとストレートプレイも好きだなあと感じられる観劇体験でした。



【あらすじ】(上記公式サイトより引用)

ニューヨーク郊外の閑静な住宅街に暮らすベッカとハウイー夫妻。

彼らは8カ月前、4歳だった一人息子のダニーを交通事故で失いました。ダニーとの思い出を大切にしながら前に進もうとする夫のハウイー。それに対し、妻のベッカは家の中にあるなき息子の面影に心乱されます。そのような時にベッカは、妹イジーから突然の妊娠報告を受け戸惑い、母のナットからは悲しみ方を窘められ、次第に周囲に強く当たっていきます。お互いに感じている痛みは同じはずなのに、夫婦・家族の関係は少しずつ綻び始めていました。

ある日、夫妻の家にダニーを車で轢いたジェイソンから手紙が届きます。会いたいというジェイソンの行動に動揺を隠せないハウイーですが、ベッカは彼に会うことを決意します。



「お互いを愛して思いやっていて」「息子のことを愛していて」「息子の死を哀しんでいる」と共通していても哀しみ方の違いからどうしようもなくすれ違ってしまうハウイーとベッカ。ハウイーは折に触れ息子の動画を見返し思い出の品を目に触れるところに置いておきたいと思っていて、思い出を大切にしながらも前へ進みたいと考えている。一方のベッカは息子の面影があるものに目を触れたくないし、まだ前へ進むことも考えたくない。
この違いをインタビューで万里生さん*1は男女の違いなのかなと話していらしたけど、どうなのだろう。男だ、女だ、で当てはまめるのもナンセンスな時代だけれども自分は確かにベッカタイプかもしれないなとは思う。

また、息子の死に対する捉え方の違いもあると思う。二人の息子は飼い犬を追いかけて道路に飛び出したところを車に轢かれてしまい亡くなってしまったのだが、ベッカは自分が電話をしていて息子を見ていなかったことを悔やんでいて、さらにより直接的な原因は犬が道路に飛び出したからだと思っているように感じた。彼女は息子を轢いた車を運転をしていたジェイソンに会うことに前向きでありまだ少年であるジェイソンに思いやりも見せる。対照的にハウイーはジェイソンに対して苛烈で、ジェイソンに悪意はなく事故だったと理解はしていても納得できていないようだった。
ジェイソンとの邂逅は物語の中~後半に起こるのだが、カウンセリングセミナーにも行かず友人とも連絡を取らずに危うい妻とそんな妻を献身的に支えている夫…という印象だった前半から対照的にベッカの強さとハウイーの弱さが浮き彫りになってくるのが印象的だった。

現代劇のストレートプレイは台詞の応酬に観客を没頭させることができるかが鍵だと思っているのだけど、冒頭から小島聖さんのナチュラルな芝居により現代アメリカの世界観に引き込まれた。脚本にテレビドラマを数多く手掛けている篠﨑絵里子氏が担当されたということで舞台の言い回しすぎない日常的な台詞での台詞劇であったところも良かったと思う。ミュージカルだとどのようなテーマであってもどうしても『非日常』になってしまうので(もちろんミュージカルはその機能が面白いところなのだが)、全く自分の日常との地続きに錯覚させられるストレートプレイはやっぱり面白いなあと痛感した。
昨年観劇した『ブライトンビーチ回顧録』に続き小山ゆうな氏の演出作品を観るのは二度目だったのだがどちらもとても感激したので小山氏の演出作品はチェックしていこうと思う。

と、真面目な感想はここまでにして以下は脳直の感想なのですが、ハウイーがめちゃくちゃメロメロだった!!!!2022年度結婚したい男No.1です。おめでとうございます。*2
インテリジェンスで優しくて穏やかで清潔感があって犬好きで思いやりがあって妻の家族も大事にしていて休日は友達とスカッシュする陽キャなの、良すぎる。不倫未遂疑惑もありましたがフィクションの登場人物としてはそれくらい弱さがある方が魅力的なのでオッケーです(しかしちょっと惹かれて一緒に食事は行ったけどそれだけなのかなーと思った。同じ痛みを感じてる同士で一瞬傷をなめ合ったんだろうな、という所感)
というか、スマートにスーツを着こなしつつ座り方とかは男っぽい万里生さんが格好良すぎてメロメロだったのだけど、ご本人から所作にグリブラ*3でまあ様*4から教えてもらった宝塚男役の極意を実践していたと明かされて、つまり宝塚はメロメロなのかもしれない・・・と思ったのだった

***

会場はKAAT神奈川芸術劇場大スタジオでした。
大スタジオだから大きいところなのかと思ったらキャパ500くらいのコンパクトな劇場でした。KAATでやってる作品は興味深いのが多いんだけど神奈川遠いんだよなー。

*1:ハウイー役

*2:今年この後観に行くのはサイゴンとエリザの予定なので彼らは結婚したくはない男たちだと分かっている

*3:WOWWOWのミュージカルバラエティ番組

*4:朝夏まなとさん